よせばいいのに、珍しく商売について心配してみた

2009年8月30日。大きく歴史が変わった日だと言えるでしょう。
民主党の歴史的大勝利。そして、歴史ある作品である『仮面ライダー』が、最終回を劇場版に放り投げるという大暴挙を行った日。


選挙当日の朝、こんな話があると聞きました。

大和田秀樹さん
「(民主党を漫画に例えると)期待感はあるんですけどよく読んでみると『つづく』しか書いてない」
「政治は漫画じゃないので『次回予告』じゃ済まない」


http://d.hatena.ne.jp/jundas/20090721/p1

しかし現実では、誰も「よく読んでみる」ことをしなかった。
いやむしろ、よく考えることを諦める、拒否する流れのほうが主流でした。
外国人参政権人権擁護法、それらについても考えることを面倒くさがる。そんなこと気にしてるのは一部のヲタだけだと、思考停止を推し進めるレッテル貼りも始まっています。
思い出してください、4年前の郵政選挙を。「民営化するか否か」を判断する簡単な選挙だと喧伝し、それ以外のもっと大切なことから目を反らさせようとしていたではないですか。
国民を徹底的に思考停止させ「輿論」を奪い、その場の空気を読むことしかしない「世論」を形成させようとする流れは、あの頃から何一つ変わっていない。
この分だと、いずれ民主党が政権を奪われる時は、下手したら先日の選挙以上の大差をつけられるかもしれません。


深く考えるということを辞めてしまった日本人にとって。
「伏線は張るだけ張ったけど回収しない」という平成ライダー、とりわけ白倉プロデューサーのやり方は、実に合理的だと言えます。
設定やキャラクターがその場その場で変わってしまっても構わない、その場その場が面白ければ。
何故なら、誰も深く考えて見ることなんてしないから。先のことなんて考えないから。


「次回予告」で済んでいいよ!


2009年の夏の終わり。それが大多数の日本人の本音だと、情けない形で明らかにされてしまったのです。
「公約実現のための財源の説明は政権取ってからね!」と、「ディケイドの完結は劇場版でね!」。
これが同義に思えるのは、自分だけでしょうか。



……うん、絶対自分だけだよ。自分でもそう思うよ、半分くらい。



しかしこれで終わってしまっては、絶望先生そのもの。
現実は絶望先生のように、(主に)木津千里による全滅オチ→次回では何事もなかったかのように復活、なんて上手いこと行きはしない。
絶望もまた思考停止の一種。考えろ、考えるんだ。



……思うのですが。
最終回を劇場でやる、このことのメリットってなんでしょうか?
いえ、東映にとってではなく、スポンサーにとって。玩具会社にとって。
物語が好きで作品を見る自分に、経済効果について必要以上に考える趣味はないのですが、どうしても気になる。


仮面ライダーは子供に玩具を売るための番組だ! だから金を落とさない大人のファンは口を出すな!
そんな暴論を、4年前よく聞きました。
それは暴論ではない、それが全てだと言い切るかたに、特に考えてほしいのですが。
ディケイドを年末への最終回に引っ張ることは、玩具を売るための番組にとってどんなメリットがあるというのでしょう?


現在放送されている仮面ライダーは『W』です。ええ、ディケイドとは違うベクトルの面白さがあり、今のところ毎週楽しく視聴しています。いやホント、今年のSHT(プリキュア含む)はほぼ全て当たりですね。
自分の感想なんてどうでもいい? 子供に玩具が受けることが全て? それも一面の真実でしょう。6話の時点で全9フォームを披露、それも不自然な出し方*1ではなく上手く話に組み込んで。ええ、物語的にも商売的にも文句ない、理想的だと言えます。
だから玩具CMも『W』ばかり流しています。どんどん売れてほしいです。路線変更とかもう御免ですから。
ならばスタッフも全力で『W』を応援すべき。(既に持っている)ディケイドの玩具より、Wの玩具のほうが欲しい! と思わせるくらいのものを作らなければならない。
だからこそスーパー戦隊では、前作のレッドが次のレッドにバトンタッチをするんでしょう。これまで応援してくれてありがとう、これからは次のヒーローをもっと応援してあげてね! と。
だからもう、ディケイドの玩具CMが流れることはないのです。玩具屋でも、その姿はもうほとんど見かけることはないでしょう。


……それなのに、何でディケイドは年末まで引きずってるんですか?
ディケイドに割く時間を、労力を、Wに費やすべきじゃないんですか?
今更ディケイドの玩具を売るでもなし、どうして終わった番組を特別扱いするのですか?


思えば昨年から、終わった番組への異常な扱いの良さは始まっていました。
言うまでもなく電王です。
劇場版2『電王&キバ』の時は、まぁキバの扱いは添え物程度でしたが、一応現役番組を立ててはいました。
しかし劇場版3『さらば電王』は、別にNEW電王ベルトが発売されたわけではありません。劇場版1の時はガオウベルト(&電王ウイングフォームバックル)が商品化されたのに。
キバのTV放送時間にまで割り込むに飽き足らず、キバの映画の最後にまで登場し宣伝していった、前番組の連中。全くもって、迷惑な存在なのだ。
まぁ電王がディケイドと決定的に違うのは、TVできちんと完結し、その後&外伝の物語として『さらば電王』&『超・電王』を作ったということなのですが。
どちらにせよ、現役番組に集中してほしい人たちにとっては、世界一迷惑な存在なのだ!


余計な御世話だとは思いますが。
よくもまぁ、バンダイがこれを許したもんだ、と不安になってしまいます。
プリキュアで例えるなら、ちょうど今頃『さらばYes!プリキュア5GoGo!』が公開されるようなものです。現役のフレッシュを差し置いて。ええ、タイトルに「&フレッシュ!」とか書かれてません、添え物でゲスト出演とかしません。純粋に5メンバーの話です。うん、実現するはずがない。
まぁそれだけ、電王が異常な存在だった、継続的に売れるコンテンツだったということでしょう。自分もイマジンあにめ2買っちゃったしなぁ……
でも、さらば電王にしろ超・電王にしろ、ちゃんと映画館に子供の姿があったのは嬉しかったです。ハイ。自分だって子供の頃、あの番組の続編が見たいと何度思ったことか。それが叶えられたんだから、嬉しいに決まってる。



さて。ならばディケイドもまた、異常な存在なのだろうか?
これ以上続けて、商売的な意味でのメリットはあるのだろうか?
ガンバライド自体はディケイド開始以前から始まってたし、今もWが牽引してくれれば問題ないはず。
続編を作ること自体は簡単です。「ここが○○の世界か……」と士が言えば、何処にだって行けるのがディケイドのメリット。だから早くプリキュアの世界に行くんだディケイドォ!
正直、「最終回を劇場版でやる」のでなく、TV最終回をきちんと終わらせた後「ここがWの世界か……」という共演映画をやってくれたなら、ここまで問題視はされなかったでしょう。夏の映画の借り(主にユウスケ@ライジングアルティメットクウガの見せ場を奪われたこと)を返すことが出来るんだし。


でも、いつまでも旅を続けるわけにはいかない。いつか飽きられるでしょう。
なぜなら、ディケイドという作品は、異世界=他の作品に極端に依存した世界観であるから、です。
そして何より、今までディケイドという作品が盛り上がっていたのは、他作品を旅していた点、です。
平成ライダー9世界では飽き足らず、まさかシンケンジャーの世界や、ブラックRXの世界に行くなんて誰が思ったか。だからプリキュアの世界に行けば話題騒然だぞディケイドォ!
目を引く部分、盛り上がる部分、それは全てディケイドが出会った者たちによって引き起こされたものです。
あくまでディケイド=士は受け手。その世界のライダー、ヒーローに会ってこそ、士はあのBGMと共に説教を始め、変身する。そのお約束こそが、ディケイドの最大のクライマックスでしょう。


……それが、電王とディケイドの決定的な差です。
電王にしろキバにしろ、現在のWにしろ。一から世界観を、作風を築き上げた。
しかしディケイドは、既に構築された世界観を破壊し、再構築することに意味があった。
その果てに残されたのは、ディケイド固有の作品世界とは何か? という問い。
それに答えを出すことは、夏の劇場版ですら叶わなかった。自分の正体が何であれ、旅はずっと続くという現状維持ENDになってしまったのだから。
それにあの映画の一番のクライマックスは、士が自分を取り戻しあのBGMと共に変身するシーンではなく、オールライダーが集結するシーンだったのだから。


さぁ、果たして冬の映画における最終章では、ディケイドは固有の作品世界を作ることが出来るのだろうか?
ディケイド=士と愉快な仲間たちへの、キャラクターに対する愛着はあったとしても。他作品に拠らない、いやむしろ他ライダーを敵に回した上での『ディケイド』固有の魅力を、示すことが出来るのだろうか?
そして、それが出来たとして。
それを、視聴者は――子供たちは求めていたのだろうか?
TVでは全くやっていなかった、最終回でも出来なかったことを。今まで出来なかった=受けるかどうかも分からないディケイド固有の物語を、果たして劇場という大舞台で受け入れてもらえるのだろうか?
……併映であるWのビギンズ・ナイトが受け入れられればいいかもしれませんが、3ヵ月ちょいの放映期間で劇場に足を運んでもらえるほどの愛着が作れるかどうか。まぁ自分は既にめっちゃハマってますが。


ちょっとした冒険どころではない、最大の冒険だと思います。
何せ、今年の東映の子供向け映画の公開数は異常です。
1月にゴーオンVSゲキ、3月にプリキュアオールスターズDX、5月に超・電王、8月にディケイド&シンケン、10月にフレッシュ、12月にディケイド&W……そしてONE PIECEもあります。
春夏秋冬全部やってます。どんだけ懐厳しいんですか東映さん。

東映岡田裕介社長は、その席で「去年の秋の『さらば仮面ライダー電王』で、電王は終わらせるつもりだったが、もう1本映画を製作することにした。目下撮影中で、公開は4月頃の予定だ。東映がピンチに陥ると、ライダー、プリキュア、戦隊はいつでも駆けつけてくれます」と発言した。


http://animeanime.jp/news/archives/2009/01/post_649.html

「いつでも」っていうのは、ライダーたちがどんな時も駆け付けるって意味じゃなかったんですね。「いつでも」東映はピンチだったと。
ディケイド最終回が劇場になったのは東映上層部の判断、という噂がささやかれるのはこのためでしょう。つまり、そこまでしないと興行収入が大変なことになると。


でもワンピもディケイド&Wも、同じ12月12日公開なんですよね。東映同士で食い合ってどうするってんでしょうか。
今回のワンピ映画、原作者・尾田栄一郎先生全面協力による大作ですよ。この準備のために、今年のワンピの映画を春からずらしたんだろうし、ジャンプでの休載も多かったんだろうし。
おまけに同日には、『大怪獣バトル ウルトラ銀河伝説』も公開。ついでにヤマトも公開。
さぁ、これだけいっぺんに映画公開されて、子供さんは親御さんに見たいものを全部見せてもらえるんでしょうか? 多くて二つにしなさい、と言われるのが関の山では?


こんな年末のクソ忙しい状況で、無理矢理ライダーの映画の枠を作って。
Wに集中すべきところを、ディケイドに余計な労力まで割いて。玩具会社はともかく、同じ東映の作品にはまごうことなき迷惑をかけて。
果たしてディケイド(&W)は、プリキュアオールスターズや超・電王、オールライダーのように、東映を救うことが出来るのでしょうか?


ディケイドはとうとう自分の番組をも破壊してしまった!
あの最終回を、ディケイドのスタッフはそう表現します。そう言うしかないのかも知れません。
でも番組を破壊して終了、とはいかなかった。ほぼ完璧に伏線を回収した上でマジンガーZ=兜甲児を破壊してしまった『真マジンガー 衝撃!Z編』とは違い*2、破壊した後のことも劇場で描かれなければならない。
番組を破壊した結果、何が起こるのかを、我々は目の当たりにするのである。


おのれディケイド……お前のせいで、東映は完全に破壊されてしまった!


そんな最悪の結果だけは訪れないよう祈っています。ディケイド以外の東映作品のためにも。



……そういえば4年前の郵政選挙で。
小泉劇場の開始により、構造改革という大義の前に、それまでの自民党はボッコボコに破壊された。
マスコミを利用し民意さえ得られればOK、それが衆議院選挙、という前例を作ってしまった。
……そういえば4年前の響鬼騒動で。
プロデューサー交代により、番組を立て直すという大義の前に、それまでの世界観はボッコボコに否定された。
商売のためならどんな扱いを受けてもいい、それが玩具販促番組、という前例を作ってしまった。


そして今年の夏。自民党は遂に倒れ、政権を奪われた。
ならば今年の冬……なんて牽強付会は、自分だけのバカな妄想でありますように。でも確か昨年末の鬼太郎映画は……

*1:ex.天井から落ちてくる、チベットから郵送、タコカフェワーゲンにいつの間にか置いてあった、などの新アイテム登場方法。

*2:何せこちらは、ブレードが主人公になるであろう続編の宛が間違いなくない。同じ今川監督のGロボ・バベルの籠城編的な意味で。