ヨゴシュタイン様散華に思う、ブンビーさんに相応しい最期の描き方

ちょっと前の話になりますが。


ゴーオンジャー、まさかこんなに早くヨゴシュタイン様が亡くなってしまうとは。
歌合戦の回でキタネイダスとデュエットし、倒されたゴーオンジャーに「大丈夫か」と駆け寄ったり、悦に入って唄った挙句玉砕したアニと一緒に花占いしてた頃からは考えられない、悪役としての散りっぷりでした。
G3プリンセスの時にしろ、これはゴーオン側とガイアーク側の和解があるか? という期待が、見事に打ち砕かれた形になります。


ただ忘れてはならないのは、ゴーオンジャーにおける街の破壊描写、被害の描き方が、酷く現実的であったこと。
「汚れた世界で暮らしたい」が本意であるはずのガイアークの侵略活動、しかしそれによる犠牲者は相当出ているはず。あれだけビルを壊してますからね、ええ先日のたっくん(のそっくりさん)も嘆いたことでしょう、自分でも壊してたけど。
その因果による結末、無理はないです。兵部少佐@絶チルなら「一般人(ノーマル)のためだけの因果」「誰のための社会なんだい?」とか言いそうですが、残念ながら人間社会は先人たちによる歴史によって構成されるもの。その長い歴史を否定して新しいものを立ち上げても、それは共産主義革命と何ら変わりありません。*1



ところで自分が興味を持ったのは、ヨゴ様散華の次の回。
ガイアーク側が葬式を挙げる一方、ゴーオンジャーがパーティーを開いていたという現実。
生還した走輔を祝うためでもあるでしょうが、やっぱり敵幹部を倒したというのは目出度いことなんですよね。
その対比は残酷ながらも、彼らゴーオンジャーが「大人」であることを感じさせます。一度は共闘しながらも、その辺はキッチリ分けている。
ちょうどその回で、家出した古代炎神にアニが呼びかけましたよね。「大切なものを守るためなら命を投げ出す覚悟で戦っている」と。そう、命のやり取りをしているんです、彼らは。
例えば走輔の前職はレーサーでした。死と隣り合わせの中、彼らは走っています。連のバス運転手だって、いざという時は乗客を守るために命を賭けなければならない。軍平の制服警官は言うまでもありませんね。


どんな職業だろうと、誰かのために命を投げ出す覚悟を持たなければならない、それが大人の責任です。
それはヒーローとて同じこと。ゴーオンの世界観では「ゴーオンジャー」が仕事として認知されてますから、なおさらです。


……命を投げ出す覚悟を持っているからこそ、悪の機械生命体とはいえ「心」を持つ敵幹部の命を消せる。
そこには決闘と言うべき、現代の価値観では測れない高潔な精神が流れています。
正々堂々ではないけれど、彼なりに戦い散ったヨゴシュタインを、あの世でヒラメキメデスは笑顔で迎えたことでしょう。
そういえば走輔、ヒラメキメデス(デタラメデス)にトドメを刺した時、「あばよっ!」と別れの言葉を投げかけましたよね。
たった一言だけれど、自分はあのシーンが大好きです。決して相容れないけれど、何度も剣を交えた好敵手だからこそ言えた手向けの挨拶だから。



銀魂』から、神楽父・海坊主の名言を引用します。

海坊主
「地球人*2ってのは妙な連中だ、憎んだ相手の墓まで作る。
憎しみがあってもそこに同じだけ愛情もある」

ボウケンジャーでは映ちゃんが、親の仇であるはずのアシュ=クエスターの墓を作ったりしました。
そこには「化けて出られたら困る」という利己的な理由に留まらない、心を持つ人間だからこそ持てる精神があったのです。



さて、だ。
こっからがプリキュア5、ていうかブンビーさんの話。
キャラの面白さばかり目立ってしまいますが、彼の言動だけ抜き出すと……ブンビーさん、滅茶苦茶見苦しいです。そして身勝手です。
度々の失敗でエターナルには帰れないから「プリキュアのリーダーになってやろう!」って、ンなこといきなり言われても困るでしょう、いっくらのぞみだって。
死に際に自分の名を呼んだスコルプの散華の場所の目の前で、自分の保身のために敵に頭を下げる。いや下げてないけど。下手に出てもいないのに「したてにでれば いいきになりおって しね!」*3てな感じで逆切れする。そりゃプリキュアも容赦なくビオランテでブッ倒そうとするってば。かわされたけど。
そして再び現れたと思ったら、今度はエターナルに戻るためモンブラン国王を連れ去ろうとするコウモリっぷり。そりゃローズも容赦なくメタル薔薇ぶちかますってば。かわされたけど。
……で、その辺の背信行為が全部アナコンディさんには筒抜け。そりゃ処分されて当然でしょう。生き残ったけど。


でもブンビーさんの一連の自業自得な顛末に爆笑しているのは、彼もまた「人間」らしい滑稽さを持っているから。
そして生き残ったことに胸をなでおろしたのは、自分も「生き残りたい」から。


現在のブンビーさんの行動理念は、自らの主義主張に殉じたヨゴシュタイン様とは、全く違うものです。
ナイトメア時代の部下やスコルプさんの仇を討つことでも、2年間戦い続けたプリキュア5との決着でもない。
ただ「生き残りたい」ってことだけ。
こんな人間らしい心を持ったキャラはいません。誰だって死にたくない、どんなことをしても生き残りたい。たとえ誰かが犠牲になろうとも。
格差社会と呼ばれて久しい現代。しかしその格差自体もマスコミの捏造報道だとか、「昔は良かったなんて言っても戦前のほうが犯罪率は高かった」とか、その格差を(結果的に)肯定するような主張も、ちらほら聞こえ始めた現代。
ブンビーさんの生き方を、誰が笑い飛ばし、吐き捨てることが出来るでしょうか。


ここで自分が思うのは、このブンビーさんを倒す側のプリキュア5が「子供」であること。
本来、庇護を受けている子供に、誰かのために命を投げ出すまでの覚悟が持てるはずありませんし、持たせてはいけないのです。
そんな彼女たちがスーパーヒロインになり、ナイトメア&エターナルの命を消している。
「大切なものを守るためなら命を投げ出す覚悟で戦」っているか、戦わせていいのか、甚だ疑問な子供たちに。
……これは、敵を倒すことが「闇に返す」or「元の自然に返す」と表現されていた*4プリキュアの過去作にはない、『プリキュア5』特有の問題点です。


もっとも、のぞみたち個人の精神は、既に「命を投げ出すまでの覚悟」のレベルまで到達しているかもしれません。
今公開されているキュア映画*5なんて、敵幹部とドリームが文字通りの一騎打ち、決闘してますし。
前期シリーズで絶望を超えた彼女たちが、戦いをやめることはないでしょう。エターナル相手だろうと、現実相手だろうと。
彼女たちは「ただ生き残りたい」がために、日々を送っているのではありません。それぞれの夢のために、夢を叶えて何かを産み出すために生きているのです。勿論その夢には、ココ、ナッツ、ミルク、シロップの夢を叶えるというのも含まれます。


ただ、そうだとしても考察せねばならないのは。
ブンビーさんが「生きるために」悪行を働いているということです。


ブンビーさんは、ナイトメア&エターナルで「職業」として、悪事を働いている「大人」なのです。
悪事を働かなければ、生きていけないのです。


一方のプリキュア5は、彼女たち個人は「生きるために」戦っているわけではない。
彼女たちを生かすために戦っているのは、彼女の保護者たちの側です。
今現在の彼女たちが夢に向かって進んでいけるのは、彼女たちの保護者が「生きる&生かすために」戦っているからです。


この差は、2期目で進級をさせずサザエさん時空に突入した『GoGo!』では、永遠に埋まることはないでしょう。
夢いっぱいの被保護者たちが、夢を失った大人を一方的に説教し、容赦なく倒す。いや「殺す」。
……何度もオーディションに落ちたうらら、何度も投稿作を書き直したこまち……という風に、夢に立ちはだかる現実を丁寧に描いてきた『5』シリーズで、こんな安直なことをしてしまっていいのでしょうか?*6
もしかしたら、夢破れた自分の未来の姿が、ブンビーであるかもしれないのに。



思わぬ形で生き残ってしまったブンビーさんですが。
実は、『プリキュア5』の"夢"というテーマに対するアンチテーゼとして、ずっと機能していたとしたら……
この物語の裏主人公は、ブンビーさんに他ならないということになるのです。


これからのブンビーさんの行き着く果てを、しかと見届けようと思います。
それは、現代に生きる我々にとって、決して目を逸らしてはいけないものだと思うから。



――ちなみに。
ブンビーさんを容赦なくブッ倒せる資格と能力のある人物が、一人だけいます。
ミルキィローズ美々野くるみ=ミルクです。


彼女は人間社会に生きるものではない上、「準お世話役」という「職業」に就いています。
人間社会においては年齢的事情から学生として生活しているものの、家庭では家事の切り盛りという立派な役割を果たしています。学生兼業主婦とも言えるでしょう。
パルミエ王国で彼女の親族が登場しなかったことから考えても、彼女はいっぱしの「大人」として扱われている……と言い切りたいんだけど、ココナッツの親族とかも不明なので、ちょっとこれは保留。こまち、かれんさんの両親が姿を見せないのと同じなだけかもしれないし。
さらに、ブンビーがかつて所属していたナイトメアに祖国を滅ぼされ、独りで生き続けたという過去もあります。


彼女なら、ブンビーさんに説教する資格があると思います。
生とは何かを産み出すためにあるもの、ただ生きるだけではケダモノと同じだと。
何かを生み出そうとしている国王、そしてその親しい者たちの夢を奪う資格は、ケダモノにはないと。


ローズの戦闘経験の少なさをブンビーさんが見抜いたみたいに、ふたりのライバル関係をもっと作っておけば、この辺りスムーズに進んだのではないかと思うのです。


……まぁ、ケダモノが一匹くらい生き残る余裕のある世界であってほしい、とも思いますが。
それこそ、ゲゲゲ5期で同一CVのねずみ男みたいに。
ねずみ一匹いない世界もまた、住みにくいものだから。

*1:問題はエスパーが物理法則すら超越する、人類史上ありえなかった存在だってことで。新しい価値観、歴史を検討する必要はあるでしょう……ああ、絶チルについては改めてまた語りたいです。今の自分の考えでは、絶チルにおけるエスパー=ガンダムXにおけるNTと同じように以下略。

*2:銀魂世界にも江戸以外の国はあるようなので、「侍」あるいは「江戸の人間」とすべきだったかも。我々の世界に当てはめれば、おそらくは「日本人」に……そのうち枕に「かつての」が付くかもですが。

*3:魔界塔士サ・ガ』のアシュラの台詞より。一部乱暴な表現がありますが原作に沿って表現しているためですので、ご了承ください。

*4:の割に、無印でキリヤは姉の消滅を明らかに「死」と認識してたような気もしますが。

*5:レビューはちょっと待ってね、この映画深読みすると面白過ぎるから。お菓子という嗜好品に過ぎないもののために戦う意義とか、その「お菓子」を「愛」と言い換えたらムシバーン様と女王様の関係が大変なことになるとか……

*6:実は『5』1期で、ガマオくんを倒しちゃった時点で、コレと似たようなことはやってしまっているのですが。ガマオくんはブンビーさん程社会的立場のある「大人」ではなかったですから、当時。